Yの相続人が子A、子B、子Cで、子Aが事業承継者の場合。
上記事例の場合、以下の登記をするのが望ましいと思います。
② 根抵当権の「債務者」を死亡した個人事業主から子へ変更する登記
②の登記についてはYの死亡から6カ月以内に登記しないと根抵当権の元本は確定してしまいます。
子Aが事業を継続するのであれば、6カ月以内に登記したほうがよいでしょう。
その際、取引銀行とよく打合せしましょう。
そして子Aが事業を承継し、根抵当権の元本を確定しないのであれば、②の登記は実務的には3件に分けて申請します。
従って、この場合登記内容をもう少し詳細に記載すると
②-1 根抵当権の「債務者」を相続を原因としてY→A・B・Cへ変更する登記
②-2 Aを「指定債務者」とする登記
②-3 「債務者」をAに変更するとともに「債権の範囲」を変更する登記
解説
②の登記は何故3つの申請に分かれているのでしょうか?
『債務者』Y→Aに直接変更できれば1つの申請で済むはずですが、実際にはできないためです。
では、なぜできないのでしょう?
それは『債務』が遺産分割の対象とならないからです。
遺産分割できない以上、Yの相続時点で存在したYの債務は法定相続分に従い、相続人A・B・Cが等しく相続することになります。
もちろん事業を承継しないB・Cにとっては迷惑な話ですから、事後的にB・Cが承継した債務はAが引受けることになるのですが、一旦は実体法どおりに②-1の登記を経る必要があるのです。
そして②-1の登記をしただけでは民法に従い、根抵当権によって担保される債権額は相続後6ケ月経過すると『確定』してしまうので、元本を確定させないためには②-2の登記をすることとなります。
この登記により事業承継者Aが『指定債務者』となります。
一見、これで目的は達成されたかのように思えますが、実はまだ問題があります。
それは②-2の登記が終了した段階の『債務者』がだれであるか?を検討することにより明確になります。
実はこの段階での債務者は『A・B・C』ならびに『指定債務者A』なのです。
②-1の登記によりYの生前の債務はA・B・Cが承継しました。
そして②-2の登記ではYの『死後』の債務をAが引受ける合意をしたことが表現されているのです。
(だから②-2の登記をすることによって根抵当取引が継続するとみなされ、元本が確定しないことになるわけです)
従って、Yの相続を境にして『前の債務』はA・B・C、『後の債務』はAが単独で負担している状態といえます。
もちろん当事者の合意があれば、②-2の登記までで手続きを完了することも可能ですが、通常B・Cが納得しません。
よって②-3の登記により債務者を確定的にAのみに変更すると共に、『前の債務』のB・C負担分を債権の範囲に加える変更をします。
この登記により他の相続人B・Cは完全に事業債務および根抵当権の当事者から離脱し、事業承継者Aがすべてを引き受けることとなるのです。
具体的な登記申請手続きについては次回。
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